事件受任に至るまで
本件は、個人間のマンションの専有部分の中古売買で、床の傾斜だけが問題となった事案です。床の仕上は、直貼りフローリングです。買主は、入居してすぐに床の傾斜を体感し、売主の仲介業者に連絡しましたが、売主の仲介業者は、床の傾きだけでは契約不適合(瑕疵)にはならないと回答しました。
そこで、買主は一級建築士に床の傾きの調査を依頼したところ、レーザー墨出し器による約3m間の測定で、1000分の6を超える傾きが確認されました。
買主は、売主を相手に民事調停を起こしましたが、売主は、床の傾きだけでは契約不適合(瑕疵)にはならないと反論し、話し合いにならずに調停は不成立となりました。
そこで買主は私に訴訟提起を依頼しました。私が現場で床の傾きをデジタル水準器により測定したところ、最も傾斜が酷い居室で1000分の20、別の居室、廊下、リビング、ダイニングで、それぞれ1000分の10の傾きが確認されました。
日本建築学会では、「液状化被害の基礎知識」の「建物の傾きによる健康障害」として、床の傾斜角が「100分の1程度」(1000分の10)の場合、健康障害として「めまいや頭痛が生じて水平復元工事を行わざるを得ない。」という研究結果を公表していますので、この基準をもとに床の傾斜は契約不適合(瑕疵)に当たると主張することになりました。
訴訟の流れ
訴訟では、売主側が、デジタル水準器による測定では局所的な傾斜の数値を拾ってしまい、過大な数値になるので不適切だとして、傾きの有無と程度を争いました。
裁判所の調停委員(建築士)は、買主、売主、裁判所が現地で立ち会い、売主が依頼した建築士が床の傾斜の測定を行うことを提案しました。
測定方法は、①レーザー墨出し器によって2点間の傾きを測定する、②測定する2点間の距離は900mmピッチとし、③買主、売主の希望する箇所も測定するというものでした。
全員立ち会いの下で測定したところ、最も傾斜が酷い居室で1000分の20、別の居室、廊下、リビング、ダイニングで、それぞれ1000分の10の傾きが確認され、デジタル水準器で測定した内容と同じ結果が出ました。
裁判所は調停意見として、床の傾斜を契約不適合(瑕疵)と認定し、床の傾斜の是正工事費用、仮住まい費用、引越費用を損害として認め、調停成立となりました。
訴訟提起から調停成立までの期間は約1年7か月でした。
コメント
当初、買主が依頼した建築士の測定では、床の傾斜の数値は1000分の6程度でした。これは品確法に基づく「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」により、3m程度以上離れている2点間の床の傾きを測定する方法で行われたため、3m以内の局所的な床の傾斜が全て無視されてしまったため、測定結果が実際の床の傾斜よりも低い数値となっていました。
しかし「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」は、建物の全体が一定の方向に傾くような構造上の瑕疵の有無を判断するための基準であり、3m未満の床の凹凸は考慮されないため、局所的な床の凹凸を測定できないという問題があります。局所的な床の傾斜を瑕疵として主張する場合には適さない基準、測定方法と考えられます。
専門的知見を有する建築士でも間違えやすいポイントですので、注意が必要です。
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